短いコンテンツがもたらす影響
世界中の学者の多くは、スマホを頻繁に使うことは脳に対して悪影響があると考えているようです。その理由については研究が進められている最中ですが、最近の研究では、「スイッチング」と呼ばれる行為に問題があると考えられています。これは心理学の用語で、見ている画面がコロコロ変わり、注意が次々と別のものに移ることにより、1つのことに集中する時間が極端に短くなるのが「スイッチング」と呼ばれる状態です。このことは、実はスマホが登場するずっと前から指摘されていました。大きなきっかけは、1995年にWindows95という、容易にインターネットに接続できるパソコンOSが登場したことです。パソコンで調べものやレポート作成をするアメリカの大学生のあいだで、本来やるべき作業を中断し、別のことを始めてしまうという現象が起こり始めました。その後、2000年代にFacebookなどのSNSが登場すると、情報の割り込みはさらに加速し、学生たちの集中力や学業成績の低下、睡眠障害やうつの症状なども引き起こされるようになりました。最近では、「TikTok脳」という言葉が登場するほど社会的に問題視されているようです。
実は画面を見なくても、スマホを持っているだけで気が散り「成績が下がる」「集中できない」「読解力が落ちる」というデータがあります。例えばスマホをズボンのポケットに入れていて、着信が入っていないにもかかわらずブルブルっと震えたような感覚が起こる人がいます。これは幻想振動症候群(ファントム・バイブレーション症候群)と呼ばれており、そんな錯覚が起こるほど、スマホの通知に脳が過敏になっており、その他のことに集中できなくなっているのです。
金魚レベルの集中力
アメリカのマイクロソフトが2015年にカナダで調査した結果によれば、カナダ人の成人のうち2割が、わずか10秒しか集中できず、「金魚などと同レベルの集中力」であることが明らかになりました。マイクロソフトは、そのおもな原因をソーシャルメディアの活用によるものと結論づけました。興味深いのは、この調査がスマホに反対する人々によって行われたものでないという事実です。要するに、「現代人は集中力がないので、ネット広告は10秒以内でつくりましょう」と企業などに指南しているわけで、スマホを推奨する業界の人々がマーケティング戦略のために実施した調査だということを思うと、分析結果によりリアリティーを感じるのではないでしょうか。若い世代が特に影響を受けやすい理由として、脳の発達過程が挙げられます。注意力の持続には「指向性注意」と呼ばれる機能が必要で、これを司る脳の領域が完全に発達するのは25歳頃と言われています。つまり子どもの脳は、まだ注意力を持続させるのが難しい状態であり、脳が成長している途中段階なのです。
ショート動画などのような短いコンテンツは内容が次々と変わるため、この「指向性注意」を必要とせず、その結果、脳の成長が妨げられます。即時の楽しさを提供するコンテンツに慣れすぎてしまうことで、集中力や忍耐力が低下し、瞬間的な刺激を求める傾向が強まってしまいます。
危険性チェックリスト
以下のような兆候が見られる場合、スマホの利用を見直し、バランスの取れた生活を心がけることが必要です。①集中力の低下
②イライラしやすい
③睡眠の質の低下(就寝前にスマホを見ることで睡眠が短く浅くなり、翌朝に疲れを感じることが増える)
④リアルな対話の減少(家族や友達との会話が少なくなり、常にスマホをチェックするようになる)
⑤時間の管理ができない
⑥即時の報酬を求める(忍耐力が低下し、結果をすぐに得ようとする)
脳が深刻なダメージを受ける前に、スマホとの付き合い方を振り返り、正しい使い方をしているかどうか考えてみましょう。